平成15年度より3年間にわたって、ジュネーヴ大学公立図書館に所蔵されているソシュールの自筆草稿を直接閲覧し、一般言語学に関するMs.3282-3353の分類番号のもとに整理されている草稿に関して、ほぼ解読・転写を終えた。この草稿に関しては、エングラー版が存在しているが、削除された部分の復元をはじめ草稿に関する物質的な側面の記述、推敲過程の分析などは皆無であった。解読・転写の基礎作業に基づいて、生成批評の観点から加筆や削除を復元した生成批評版を電子テクストで現在作成中であり、その一部はフランスのソシュール研究所のサイト上で4月から順次公開される予定である(http:www.revue-texto.net)。また5月に提出予定の研究成果報告書で生成批評版の一部を印刷して冊子で提出する予定である。3年間の作業の過程で、エングラー版が無断に削除してしまった部分などが少なからずあるという事実が判明した。また推敲過程、とりわけソシュールの使用している用語の分析を通して、1996年に発見された草稿群との時間的前後関係がある程度判明してきたことである。 なお1996年発見の新資料の解読・転写の作業も進行中であるが、新資料の分量が膨大であり、未だにマイクロフィルム化されていないため完了しえなかった。しかし新資料の一部を対象としたガリマール版が自筆草稿の最終稿の復元からは程遠いという事実が判明した。今後の生成批評版の作成刊行の歴史的意義がいっそう明らかとなったと言えよう。
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