研究課題
基盤研究(C)
ロシア語の時制・アスペクト研究の中心的な素材となっているのは、現代の教養あるロシア人の用いているロシア標準語である。この言葉はモスクワの方言を母体とするものであるが、歴史はせいぜい17世紀の後半に始まると言ってよい。実際、ロシア語で書かれた初めてのロシア語文法も、ロモノーソフの『ロシア文法』(1757年)からである。近代ロシア語の初期に関して、『長司祭アヴァクーム自伝』(1672年〜1675年)などの言葉が、しかるべく研究されている。しかしながら、それに先立つ、近代ロシア語萌芽期(1600年前後)に関わる動詞の研究、とりわけ、時制・アスペクト体系の研究は、けして十分に行なわれているとは言えない状況である。そこで、В.В.Виноградов、Г.О.Винокурらの研究を踏まえ、また、平成10年度から平成12年度にわたり科学研究費補助金を受けて行われた古代ロシア文語萌芽期を巡る研究の成果も活用し、諸問題を整理し直すことで、新たな解釈の可能性を探るための準備を行なった。次いで、17世紀のよく知られた文献を踏まえ(『ウリヤニヤ・オソルギナの物語』(1620年代〜30年代の成立。表題の婦人の息子の筆になるとされる)といった作品)、それらの記された言語における動詞時制・アスペクト体系に注目しつつ、従来の伝統的な観点からの諸論考の到達点とその限界ならびに問題点の整理を引き続いて行なった。その後、近代ロシア語萌芽期における時制・アスペクト体系を様々なレジスター的使用相に目配りしつつ分析し、その実像を明らかにするために、その社会状況、プロセスともにある種の類似点が見られると考えられる、11世紀前後ころのキエフ・ルーシ(中世ロシア社会)における初めての文章語が誕生する際のプロセスの研究も行った。平成18年度末には、研究報告書を纏め上げ100部を印刷刊行し、諸方面に送り、成果を公表した。
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古代ロシア文語萌芽期の第二段階におけるハイブリッド性の多様さと重層性について(明治大学文学部 岩井憲幸 編)
ページ: 11-21
On the multiply hybridized characteristics of the Old Russian literary language in its later embryonic stage.
Comparative and Contrastive Studies in Slavic Languages and Literatures. Japanese Contributions to the Thirteenth International Congress of Slavists.
ページ: 57-67