本研究は、バルカン半島北西部から中部にかけての中世南スラヴ語史を、その文化史の中に位置づけながら明らかにしょうとするものである。 今年度はクロアチア、ボスニア、セルビアの14-15世紀の文献資料の内容分析とその歴史的背景について考察した。まず、クロアチアの古チャ方言グラゴール文字ならびにラテン文字文献における言語特徴の分析の一つとして、動詞完了形が過去時制の意味をあらわすようになった過程を明らかにした。この研究は2003年8月にスロヴェニアで開催された第13回国際スラヴィスト会議で口頭発表した。また、中世から近代初期にいたる400年間に渡りダルマチアに存続したポーリツァ公国に注目し、その歴史と周辺地域との関係、そしてこの公国が15世紀中期に作成した法令集の分析に着手した。ポーリツァは、沿岸都市スプリトの後背地を含むわずか200キロ平方メートルほどの範囲の地域で、上位権力としてはハンガリーあるいはヴェネツィア共和国などに支配されながらも、内政については完全な自治権を持ち、独自の行政制度を施行したユニークな自治公国であった。この地域が発行した法令集はキリル文字で書かれており、中世セルビア王国ならびにボスニア王国との深い文化的つながりを示唆するものである。現在、このポーリツァの法令集の言語分析を進めながら、この地域と周辺地域すなわちスプリト以南のダルマチアの諸都市、内陸部のボスニア・ヘルツェゴビナ、さらにはビザンツ帝国やオスマン帝国などとの関係、を探っている。ポーリツァを一つのキーとして、次年度さらに本研究の課題を遂行していく予定である。
|