研究概要 |
14-15世紀を中心とした南スラヴ語チャ方言およびシト方言の言語特徴をまとめ、現代の言語の状態に至るまでの変化の過渡的な様相を明らかにするという、今年度の研究実施計画として掲げた目標のために、まず、14-15世紀に書かれた教会文献ならびに世俗文献の言語分析、およびそれらが成立した背景について考察した。その研究の中で、当時のテクストに見られる移動を表す動詞の用法に注目し、その語彙や形態が現代語とどのように異なっているかを考察した。これは南スラヴ語の通時的変化の研究への一考察でもあり、移動という表現を言語類型論的に考える一つの材料を提示したということができる。また,ダルマチアのカトリック教会のスラヴ語典礼派の聖務日課に、スラヴの文字言語文化の創始者であるキリルとメトディオスへの典礼が取り入れられていたことに注目し、その典礼書の言語と系譜について考察した。その結果、東スラヴ(ロシア)および西スラヴ(チェコ)の言語文化伝統の交差点としてのダルマチアの存在を明らかにすることができた。さらに今ひとつの目標として掲げた、ツルナゴーラ(モンテネグロ)の言語文化を古都ツェティニエの文化活動を通じて特徴づけるという目標に関しては、平成17年9月に現地を訪問し、博物館ならびに図書館で資料を収集するとともに、ベオグラードにおいてもまた関連資料を収集することができた。これらの資料を通じて、ヨーロッパの辺境と思われがちなバルカンの地に、イタリアの活字文化をいち早く取り入れた活版印刷による文字言語文化が成立した経緯、またその文化史的意義を発見した。これらの成果はさらに、今後の研究活動の中で継続,発展させていくべきものと位置づけられる。
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