研究概要 |
1.古ビルマ語(OB)とは12世紀を中心にその前後の碑文と墨文に見えるビルマ語をいう。ビルマ語がビルマ文字で書かれるようになったのは11世紀半ばと推定される。11世紀のビルマ語と考えられるものに、誓願板(votive tablet)の裏面に果物などの名まえを彫りつけたものがある。年代がはっきり刻まれている碑文として、最古のものは通称ミャゼディ碑文(1112年)である。この碑文を中心に、12世紀のビルマ語の特徴を再考した結果、ビルマ文語(WrB)との対応関係でさまざまな事実が分かった。 2.綴り字(1)OB.-o:WrB.-u(yo:yuu「取る」);-u:WrB.-o(-su:-so関係助詞)この交替形は初期のOBにしか見られず、モン語読みの影響ではないかと推測される。(2)-uiC〜-iC〜-uC:WrB.-uiC(C=子音)初期に不規則綴りが多い。モン語の借用語だとされるがそうとは限らない。(3)介子音<l,r,y>:WrB<r,y>の対応の不規則性。 3.助詞(1)-aa(与格・於格)WrBに於格用法はない。(2)-ruy'e'(接続助詞)WrBに-rwe.i.という連続はない。 4.古ビルマ語は当時の口語を写したものであることがその表記からよく分かる。(1)hi-〜hiy'-:WrB.hri-「ある、いる」(2)satthaa-:Palisaddhaa「信仰する」借用しビルマ語化した。(3)chamii:WrB.chiimii:「灯明」前音節の弱化を発音のまま表記している。 5.OBの綴り字法と措辞法に時代的差異がある。12世紀初頭のミャゼディ碑文と12世紀末の碑文とを比べると、一般的に、後者は綴り字法と措辞法に安定と熟達が認められる。 6.本研究は、ビルマ語史研究の一部をなし、ビルマ文語形成の研究に繋がる。
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