本年度は3年計画の初年度にあたる。研究計画に従い、戦国秦漢の出土文字資料のうち戦国簡牘資料を中心に、発掘報告などにもとづき出土地・出土状況・随葬品・墓葬年代などに関するデータの収集・整理を行うとともに、戦国筆記文字研究の一環として、郭店楚簡・上博楚簡を中心に検討を加えた。郭店楚簡・上博楚簡は戦国楚墓から出土した思想関係の書物として、思想史研究の立場から注目されてきているが、その中には東土の斉・魯で著作されて南土の楚に流伝した著作が少なからず含まれている可能性が高く、何らかの形で東土の文字が混入していると予想されることから、戦国文字研究においても文字の地域的な分立と混淆を考察する上で他に例を見ない重要な意義をもっている。こうした仮説のもとに、本年度は郭店楚簡・上博楚簡を中心に研究を進め、その一部は年12月28日に国立台湾大学で開催された「日本漢学的中国哲学研究與郭店・上海竹簡資料国際学術交流会議」において「関於戦国楚墓文字的幾個問題:楚墓出土簡牘文字之形体様貌」と題して発表した。台湾では国立台湾大学や台湾中央研究院の研究者と研究協議の機会を得ることができ、戦国楚簡を中心とする学術交流を行った。また、こうした出土文字資料の研究と同時に、伝世文献における古文字研究の中心的な位置を占める『説文解字』についても新出資料を中心に検討を加えた。本年度『書学書道史研究』13号に発表した論文「唐写本『説文解字』口部断簡論考」は、その成果の一部をなすものである。
|