本研究では、まず戦国秦漢筆記文字資料の出土・公表の状況を把握し、とくに戦国期における筆記資料を分析する上で重要な意義をもつ『郭店楚簡』・『上海博物館蔵戦国楚竹書』(一)〜(四)について、竹簡の形制に関するデータをまとめ「郭店楚簡形制一覧」「上博楚簡形制一覧」を作成した。これらの基礎作業にもとづき、戦国から秦漢にかけての各時期の筆記資料の中から1.郭店楚簡『語叢三』、2.上博楚簡『中弓』、3.馬王堆漢墓帛書『式法』、4.阜腸漢墓出土木牘章題・定州漢墓竹簡『儒家吉言』を中心に研究を進め、以下のような成果を得た。 1.郭店楚簡『語叢三』:各竹簡の字体について分析を加え、この文献が3人の書写者によるものであり、字体による分類が竹簡の配列復原に有効であることを明らかにした。 2.上博楚簡『中弓』:『論語』との比較を中心に考察を加え、竹簡に見える孔子に対する呼称や人称代名詞などの用字の分析が、『中弓』の成立過程を探る上で重要な手がかりとなることを明らかにした。 3.馬王堆漢墓帛書『式法』:秦の始皇帝期に楚人によって書写された『式法』には、楚の文字から秦の文字へ転換する過渡的な状況が認められることを、個々の文字の分析を通して具体的に明らかにした。 4.阜陽漢墓出土木腕章題・定州漢墓竹簡『儒家者言』:両資料の分析を通して、前漢初期の筆記文字の実態を把握し、さらに内容画から両者の関連や伝世文献との関係などを明らかにした。
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