研究概要 |
本研究の初年度である本年においては,統語論,意味論の関連文献に目を通すこと,及び国内外の学会での資料蒐集を通して,概念構造において存在すると考えられる空範疇に関して,次のような諸問題の多角的な把握に努めた:(i)概念構造における空範疇にはどのようなものがどれくらいの数あるのか;(ii)それらの範疇のおのおのの動機付けは何か;(iii)統語的空範疇との関係はどのようなものか。 (i)-(iii)の問題は相互に関連し合っているが,まず,(i)に関しては,次のような考察を得た。当初は概念構造における空範疇として,統語的空範疇のPROに相当するものと,照応形に相当するものの二つを想定したが,このほかに,意味要素の移動に伴って生じる「痕跡(trace)」も存在すると思われる。それは,have構文,二重目的語構文の表示を可能にするものである。また,従来統詩的削除現象として扱われてきたものであるが,'I hope it will clear up tomorrow.-Who knows φ?'に見られるような前の節全体を先行詞とするような空範暗も別個に立てる必要があると思われる。 (ii)の問題と密接に関連しているのは,動詞の意味表示とそれ以外の意味表示,すなわち,Modality, Tense, Aspectを含めた意味表示がどのように結びついているかという問題である。これに関しては,中右(1994)におけるような階層構造を静めるのが適当ではないかとの考えに至っている。 上記のような理論面での考察に加えて,本年度後半からは,英語の行為動詞を対象とした実証的研究に着手しており,現在論文を執筆中である。この論文では,空範疇という概念を採り入れたモデルの方がそうでないモデルよりもより説得力のある優れた表示を提供できることを明かにしようとするものである。
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