本年度は、まず、研究の実証面では、英語の音の放出動詞を取りあげ、かねてより提案している「使役の連鎖」モデルでの分析を行い、一部その成果を論文として公表した。意味論研究への貢献という点からは、次のような成果を挙げることができる。先行研究の多くでは、ACTといった独自の関数で表示されるとしていたのに対し、本研究では、空範疇や定項を含むCAUSE関数構造で表わされる使役事象であることを明らかにした。これにより、次の三点が的確に説明できることとなった:(i)行為動詞一般がもつアスペクト的特性;(ii)行為動詞が任意的に経路を表わす前置詞句や不変化詞をなぜ取るのか;(iii)放出動詞を含め行為動詞がある一定の条件のもとで「場所格交替」の適用を受けるのはなぜか。 行為動詞の意味表示に関する成果と相侯って、概念構造における空範疇に関係した理論面の成果としては、次のような諸点を示すことができた。まず第一に、意味的項がどのような条件の下で統語的項または付加詞と結び付くかの考察をより進めることができ、連結規則をより精緻化したこと。第二に、放出動詞の概念構造の表示で用いられる空範疇には、統語論のPROoblとPROarbに相当するものの二種類があることを明らかにすることができた。また、これら二種類の空範疇と統語論のPROとの特性の相違についても考察した。その結果、格付与理論に依拠しているPROの場合は、その生起する位置がPRO theoremに則っているが、概念構造の空範疇の場合には、この定理の適用を受けないこと、PROoblに相当する概念構造の空範疇の場合は一つのbinderが複数のbindeeをもつこともあり得る、などの指摘を行った。
|