研究概要 |
昨年度、インド・ゴアにおける調査でインドに伝わるブラガ写本複写が写本の一部でありかつ必ずしも印字が鮮明でないことを知ったので、ポルトガル・ブラガの古文書館(現在は国立ミーニョ大学所管)において写本(771,772)の原本を一週間にわたり閲覧し、マイクロフィルムからの複写許可を得た。写本は1200葉で、両面にペンによりローマ字で表記されている。保存状態や、テキストの重複の状態から判断して、写本771がより古い原本であると見られる。前半がラーマーヤナ、後半がマハーバーラタを中心とする散文転写である。ゴア大学ゴミシュ教授によるこの写本の解説と食い違う点もかなりみられた。写本772は、マハーバーラタ分が写本771と重複しているが、この欠本部分を含む。また、この中にもかなり重複がみられ、インドにおいてこれらの写本が筆写されたことをうかがわせる。写本771のほうがおそらく原本に近いものと考えられ、注記のための余白がとってあるほか、訂正部分も多い。しかし、訂正部はむしろ文体や語彙の推敲によるものが主であり、コンカニ語がわかり、ローマ字の書ける複数の人物により筆写されたと考えたほうが自然である。転記は、鼻母音の表記についてポルトガル語綴り字と同様の揺れが観察されるものの、かなり安定していると言ってよい。同種のインド・ローマ字写本であるマラーティー語写本773も閲覧したが、こちらはすべて韻文の転写であり、内容の点でもクリシュナ神信仰に関わるものを多く含む点で異なっている。これらの写本の来歴については以下の通り。おそらくイエズス会が所蔵していたものであり、17世紀のイエズス会ポルトガル追放・資産接収を経て、ブラガ近郊出身の外交官であり博物収集家としても知られるバルカ伯の所有となり、バルカ伯文書館に所蔵、共和制施行に伴いブラガ文書館に移動。来年度は複写した資料を電子化する。
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