心理言語学における音声言語処理過程の研究では、語彙認識のメカニズムにおける音韻情報の機能に関する普遍性と個別性の問題を解明することが重要な課題とされているが、本研究では、心内辞書内の語彙に接近する際の音韻情報の機能に関して以下の3点について実証的に検証を行った。 第一は、語彙候補活性化時における音韻単位の普遍性を巡る問題である。現在提案されているモデルでは、音素に基づく語彙候補活性化モデルが提案されている。今回の研究ではローマ字の知識を獲得していない日本語を母語とする児童によってこのモデルの妥当性を検証し、生起する可能性が高いことを明らかにした。このことは、語彙候補の活性化はローマ字知識の獲得とは無関係に生起するか可能性が高いことを示唆するものと考えられる。 第二は、語彙候補活性時におけるプロソディの機能の普遍性の問題である。これまで英語や中国語などの言語ではプロソディの機能は語彙候補活性化に関与しないことが報告されているが、これまで実施した日本語の研究では東京方言では関与するが、無アクセント方言では関与が少なくなる傾向が明らかにされている。今回の研究では、新たな無アクセント方言である福島方言による検証を行ったところ、他の無アクセント方言話者と同様プロソディの利用が劣ることが統計的に明らかになった。このことは、日本語話者であっても、プロソディを語彙の活性化に利用する仕方には差異が存在することを示唆するものと考えられる。 第三は、音節構造内の音韻単位の認識の普遍性の問題である。今回の研究では、英語に広く認められるオンセット-ライム構造の認識に関して日本語話者と日英語の2言語話者とで比較を行い、認識の存在の違いを検証した。その結果、日本語話者であっても英語に十分晒されるならば、オンセット-ライム構造の認識が生起する可能性が存在することが明らかになった。
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