当初の研究目的・実施計画に従い最終的に次のような成果を得た。 1.言語の起源に関する進化理論については、起源が「非言語的なモノ」から「言語」への質的変化という「跳躍」であることを考えると、連続性を主張する自然選択適応説は妥当でない。また、スパンドレル説は、それ以上の研究の進展を促さない恐れがあることから、ラカトシュの研究プログラムの資格も持たない。ということから、現時点では、前適応説を探るのが最も妥当である。 2.上記の、言語の起源における質的変化を考えると、agentの初期条件に「言語的なモノ」を加えられないことからして、いわゆる構成論的/自己組織化アプローチは、起源の間題解明に貢献できるかどうかは疑わしい。 3.ネオ・ダーウィニズムの立場にせよ、Gouldらの立場にせよ、進化論における言語の起源の考察は、そもそも化石証拠などがない歴史上の過去の1回の出来事に関するものであるから、本質的に反証主義には馴染まない。一方、生成文法理論研究は(洗練された)方法論的反証主義に基づいてきているのは間違いない。生成文法論者が現時点で取るべきは、反証主義を当面棚上げすることである。これが、言語の起源・進化に関する生産的な研究をもたらす。 4.生成文法の視点からの言語の起源・進化研究に際しての基本的想定として次の事項が挙げられる。 (1)UGの中核部の起源・進化を探究する。 (2)「現在」の人間言語が説明の最終目標である。 (3)起源については、できうる限り帰無仮説を採る。 (4)UGの個々の特徴/原理の起源・進化を探る。language as a wholeという視点は有効ではない。 (5)「恣意性」を認めない。 5.極小主義理論では、その強い極小主義テーゼ(SMT)に拠り原理・体系が極めて簡潔でエレガントになったので、GB理論の場合とは異なり、それら(例えば、併合、さらには、探素子-目標子関係、叙述、修飾関係)について直接的にその起源・進化を間うことが可能になった。
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