15年度はまず、携帯電話のメール機能(以下、携帯メール)で行われるコミュニケーションに関する先行研究を調査・整理した。携帯メール研究は、主に社会調査やメディア研究からアプローチされており、言語研究の背景的知識としては機能するが、言語研究自体の蓄積はいまだ少ない。また欧米での携帯電話研究は、音声言語利用の分析が主で、メールの分析はPCのインターネット上の言語行動分析に限られるといってよい。ところが日本ではモバイル機器の先進的発達がインターネット機能を通しての携帯メール利用を促進させ、世界的に見ればかなり特殊な言語行動現象が、とくに若者の間で見られる。 これらの知見を踏まえ、本年度は若者による携帯メールの使われ方に関して2種類の調査を実施した。まず一つ目は、学生間のメール談話の質的調査である。談話の分析結果から明確になったのは、従来の基準で分類すれば「書記言語」である携帯メールに、「音声言語」の特徴として挙げられてきた多数の特徴が見られることである。加えて、書記言語であることを利用した言葉遊びや独創的な表記が見られる。これは携帯メールのメディア特性を反映しているだけではなく、若者の「規範からの逸脱」志向が、その言語表記に独特な発展を促していることが明らかになった。二つ目の調査は、全国5大学(北海道、東京、大阪、福岡)の学生645名に実施したアンケート調査である。これは学生の携帯電話利用実態調査であると共に場面を限定しての言語行動調査であり、とくに発話行為論を背景にした語用論的な言語使用が携帯メールにどのように現れ、これまでの対面会話での研究結果とどのような類似と異なりが見られるかを明らかにしようとしている。全国調査である利点を生かし、地方差と男女差を分析対象に含めている。現在数量的データの入力がほぼ終わり、自由記述形式部分のデータをタグ付け入力中である。
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