平成16年度は、国内では、上浮穴郡久万高原町土居家・新潟県長岡市阪之上小学校において調査を行った。国外では、ベトナムのハンノム院研究所並びに国家図書館において、調査を行った。 具体的には、阪之上小学校の角筆文献は、すでに一度調査が行われているが、明治大の教科書を中心として対調査を行い、角筆文字の確認追調査を行った。また、ハンノム院研究所においては、「大方広仏華厳経」「大乗大集地蔵十輪経」「妙法蓮華経」を調査し、そして、「華厳経」と「地蔵十輪経」にはクボミによる斜線が本文中に何箇所も書き込まれていることを確認した。また、国家図書館では、「妙法蓮華経」「大悲心呪持誦簡法」「易経」(3種)を調査し、「妙法蓮華経」にはハンノム院の「華厳経」や「地蔵十輪経」と同じくクボミによる斜線が本文中に書き入れられているのを確認した。角筆文字はまだ発見できていないが、少なくとも経典には、クボミの斜線が書き入れられることが大きいことがわかった。ただし、その斜線の意味はこれからの検討課題である。また、ハノイ市内の骨董品にてもとめたザオ族の筆写本にも、罫線や文頭と思しき箇所にクボミによる線が見つかった。このことは、ベトナムにおいて、日本とおなじく学習や写本作成の場において、角筆と同じ機能を持つ筆記具を使用したことを示している。しかしながら、漢字をベトナム語に直して読む行為の場面においてそれが使われたかどうかはまだ不明である。今後、ベトナムにおいては中国の漢字文化を移入するにあたって、どのような学習形態であったかをも探っていかなければならない。
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