平成15年度から17年度にかけて、国内調査では、愛媛県内で、今治市満願寺や上浮穴郡美川村大川土居家、宇和島市三浦田中家における角筆文献調査から、角筆文献が発見された。特に、土居家における角筆文献調査の過程で、大正期の尋常小学校の生徒(土居芳枝)が書いた日記が見つかった。その日記は、共通語と方言との混交体で書かれており、標準語教育を受けた地方の小学生の実態を知ることのできる貴重な資料である。そして、土居家からは明治8年発行の小学校の教科書に、角筆で漢字の振り仮名を記した書入れが見つかっている。方言交じりの日記と角筆での書き込みのある教科書とは、子供の標準語の習得の実態を知る手がかりになるという点で連続性がある。この成果は、広島大学秋季国語国文学会(平成15年11月22日)において発表した。 また、明治時代の教科書に書き入れのある報告がなされている新潟県長岡市阪之上小学校においても調査を行った。角筆の書き入れが確認できたが、落書き様の書入れが多く、まとまった文字資料ではなかった。しかし、明治期の角筆文献の存在が愛媛だけでないことを実例から確認できた。 そして、国外では、ベトナム本の角筆文献調査に重点を置いて調査を行った。国内でも、東洋文庫と慶応義塾図書館松本文庫所蔵のベトナム本の調査を行った。その結果、東洋文庫から凹みでベトナム人によると見られるアルファベットの書入れを発見した。慶應義塾大学でも、文字ではないが、記号・符号の類が凹みで書き入れられている。ベトナムでの調査機関は、ハンノム院と国家図書館である。ハンノム院では、大方等大集経、佛説金剛経、太上感応篇誦式、大般涅槃経、地蔵菩薩本願経、大方便佛報恩経、等において角筆の斜線の存在が確認できた。文字資料の発見はまだであるが、この角筆文献発掘調査を手がかりとして、ヴェトナムの漢文受容と漢文教育に通ずる新しい研究分野の開拓が可能であると確信した。
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