研究概要 |
ヒト音声へ遺伝・環境の関与を理解するために、標準的な音声資料を収集し、音響学的測定と知覚的評価を行い、音声の個人差を規定する知覚的・音響学的特性を探索した。 1.正常話者114名(大学生44名と健康老人70名)の音声資料の知覚・音響分析を行い、知覚・音響データの年代・性差を調べた。話声位(基本周波数Fo平均)は、高齢男性の一部で高く、高齢女性の一部で低かった。高齢者では、話速度がほぼ一律に低下し、軽度の嗅声も高頻度で認めた。調音は、高齢者でも変異(誤り・異常性)を認めなかった。さらに、成人話者70名の音声を聴取し、性別・年齢を推定させる実験では、正常例では性別・年齢の推定と実際がほぼ一致していたが、構音障害例で高齢と推定する傾向を認めた。 2.成人話者の音声変動を調べるために、成人8名(男女各4名)に10日間連続の音声資料(母音発声,文章音読)収集と分析(Fo,母音の共鳴周波数、語・文の持続時間)を行い、個体内変動10%前後を認めた。 3.幼児(4〜6歳、54名)と双生児(2〜7歳、23組、46名)の発語の音響分析より、語の持続時間が低年齢で長い傾向を認めた。発語「テレビ」の弾音/r/で連続的ホルマント変化が示される場合(調音良好)と閉鎖音/d/でみられる閉鎖区間(置換)や音の脱落といった調音変異が起こる場合があった。双生児では、20組中13組で調音良好、5組で調音変異、2組で一方のみ調音変異がみられ、双生児での調音に近似性を認めた(一致度=18/20=90%)。 4.成人、学童、双生児者、発声発語障害者、同一話者(発語条件の違い)を含む音声資料(N=65点・58名)の知覚・音響データに基づいた音声プロファイル化を行った結果、声の高さ・Fo平均や話速度、推定声道長が多くの話者を識別するのに有効であること、声の高さ範囲や非流暢性等も一部の話者を区別する指標となること、が示された。
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