キリシタン版国字本総合データベースの構築の完成によって、その文字使用法の統計的処理を可能とした。更に、キリシタン版諸本の原本調査を行い、原本の子細な観察と文字使用統計の両方に基づいて、その印刷技法に就て、新たな知見を得た。更に、キリシタン版の印刷技法が、慶長期古活字版に受け継がれている証拠として「面付け」を見出した。この他、踊り字の用法、漢字使用率など、データベースに基づく統計的な処理によって初めて見出される諸指標に基づいて、キリシタン版と慶長期古活字本との対比を行った。 1)国字本版本に於ける「面付け」(imposition)の発見 カサナテンセ図書館(ローマ)蔵の「さとるむんぢ」(1598)の原本を子細に調査した結果、本書が2丁(4ページ)を一組版面に組み付けて一気に印刷する「面付け」(imposition)による印刷を行っている事を発見した。「面付け」が和書について発見されたのは初めての事である。 「面付け」は、洋書版本では当然の如くに行われているが、版本を遡る洋書写本にも見られ、又キリシタン版写本にも見られる事から、和書古活字版の他例を探索した処、「解紛記」慶長十二年古活字本下巻(国会図書館)がそれである可能性を見出した。更に他例を探索中であるが、「面付け」技術が古活字本にも見出される事は、キリシタン版の製版技術・組版様式が古活字版にも受け継がれた事の強い証拠であり、キリシタン版と古活字版の連続を裏付ける強い事実となるものである。 2)「古活字版」データを含めたデータベースの拡張 既に運用中のキリシタン文献国字本データベースに、上記「解紛記」及び「大鏡」など、主要な調査対象の「古活字版」データベースを試験的に加えて拡張し、踊り字・漢字使用率などの類形分類を行った。これらと、その基礎資料となる「ぎやどぺかどる」「太平記」漢字使用対照表は、報告書に詳述した。
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