平成15年度は、静岡市井川において老年層の自然談話の録音および基礎語彙の調査を行い、中年層についても談話の収録を行った。また、南伊豆においても松崎町池代老年層の自然談話の録音、南伊豆町若年層のアクセント調査を行った。談話資料はいずれも文字化し、また調査結果もまとめ、その分析を行っている所である。さらに、先行研究や以前実施した調査結果のデータ化を進めている。 さて、上記の調査において、従来報告されてきた方言の特色の多くが、現在の7〜80代の自然談話においても現れることが確認できた。たとえば井川方言では、無アクセントであること、連母音が融合し特に共通語のオイに当たる音では円唇母音が現れること、語頭のハ行にp音が現れること、エが[je]と発音されること、助詞「を」が[wo]と実現する場合があること、有声閉鎖音の前に促音が現れること、文法面では、否定のノー・禁止をあらわすソの使用などである。また、基礎語彙においても、従来報告されているような語についても、かなりの程度確認でき、さらに多くの語彙を収集することが出来た。しかし、同じ老年層であっても他地域での居住歴がある場合、円唇母音の減少、語頭のp音の消滅、ノーからナイへの変化など、従来の井川方言の特徴がうすれ始めている場合も確認された。この変化は、年代が下がるにつれ他地域(特に静岡中心部)での居住歴のある人が増加し、より大きくなっている。 南伊豆方言においても急速に変化が生じている点では同様である。15年度中心とした70代のことばは、従来の報告とさほど大きな違いはない。しかし、南伊豆方言において最も特徴的であるアクセントは、今回調査した南伊豆町出身の若年層においては東京の若年層のアクセントとほとんど違いがなくなっている。これらの変化の詳細およびメカニズムの解明については16年度以降の課題とする。
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