言語の島と考えられる静岡県大井川上流域および伊豆半島南部の現在の高年層における言語およびその変化の様相を調査した。 まず、静岡市井川においては、基礎語彙の調査ならびに談話資料の収録を行った。また、井川に隣接する川根本町においては、語彙・文法・アクセントについて高年層から若年層にかけての言語変化に関する調査を行った。川根本町における調査からは、先行研究で報告されている諸特徴が文法、アクセント面に多く残っていることが確認できた。しかしその高年層でも、語彙の面では30年前には広く用いられていた語が、用いられずさらに知識としてもなくなってしまっている等の現象が見られた。さらに、若年層においては高年層で用いられた形式が使用されなくなり、従来無アクセントとされていたこの地域でも東京式アクセントを習得し、型知覚のある人が増えていること、また語彙の面では共通語化が進行していることが確認された。若年層については中学生を対象としたが、井川でも同様の調査を実施した。その結果、井川と川根本町は隣接しており、高年層の言葉には共通する面も多いが、若年層においては、静岡市内との結びつきの強い井川と、大井川下流域との接触の多い川根本町で若干の違いが見られた。 伊豆半島南部の方言については、賀茂郡松崎町池代において、高年層の談話資料の収録を行い、まずそのアクセントの分析を行った。また、アクセント・文法事象についてその変化の有様を見るための調査を行った。そして、この地域でも、若年層における共通語化ないし東京語化は急速に進んでいることが確認できた。
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