古代日本墨書資料を対象に、字体ならびに書体・書風の基礎的なデータを作成し、さらに、そのデータに基づいて諸様相の分析を行った。 まず、字体については、正倉院文書を中心に、同一文字における複数の字体のデータを作成し、そこから窺える特徴についての分析を行った。字体分析の対象は、正字と異体字の関係が中心であるが、正字における複数の字体も分析の対象としている。正字と異体字との関係については、同一文書における正字と異体字の併用が問題となろう。これは、文書の形式とともに書記者の書体が深く関係している。また、正字の中における複数の字体のうち、もっとも顕著なものとして漢数字の使用が挙げられる。大字と常式の字の併用は、文書の性質によって異なっており、また、同一種類の文書の中でも、作成者によって併用のありようが異なっている。 また、書体・書風研究については、次のような調査を進めた。 (1)古代木簡と同時代の日本墨書文字資料との比較 (2)古代木簡と同時代の中国墨書文字資料との比較 (3)中央(日本)の墨書資料の書体・書風の調査 (4)地方(日本)の墨書資料の書体・書風の調査 (1)〜(4)の調査を通して、最も注意されるのは、荷札木簡である。荷札木簡は、各地によって書風に違いが見られる。特に近江国の荷札木簡においては、横画に隷書的運筆が確認できる。いわゆる中国東晋時代の風である。王義之書法に酷似しているため、木簡の表記者は王義之書法をよく習字した人物ではないかと推察する。また、同書風は平城京木簡にも多々見られる。これにより平城京(中央)と近江国との密接な関係が窺われる。他国の木簡においては、楷書がベースでそれを早書きした書風である。 如上の研究の成果については、16年度に研究発表を行う。
|