研究概要 |
文は述語を中心に構成されており、特にその意味構造が文の統語構造を決定するとするのが語彙意味論(Lexical Semantics)の主張であり、この20年にわたる研究から多くの言語事実が解明されてきた。本研究は、動詞意味論に偏っていた語彙意味論研究を形容詞にも広げた点が特徴である。特に、形容詞主要構文のうちのtough構文(John is easy to Please.)とW類構文(It is wise of John to do so.)を取り上げ、関わる形容詞(tough類形容詞、W類形容詞)の意味を解明し、それらの意味特徴と構文との対応関係を明らかにした。解明された点は、tough構文では、easyとto pleaseが主述関係をなすと同時に、一つの複合述語を構成し、それが表面主語を叙述しているということである。すなわち、上の例は、John is such that to Please him is easy.と分析できることになる。したがって、John is easy to Please.のeasyとIt is easy to please John.のeasyは異なる要素と分析される。前者は複合述語easy-to-pleaseの構成要素であり、後者は[Theme,(Experiencer)]の項構造をとる単独の述語である。 W類構文では、なぜwise類のみがof NPをとるのかというイシューがある。これは、これらの形容詞がある行為に関してその様態の評価を含むことから帰結することを明らかにした。従ってslowのような形容詞には*It is slow of John to finish the job.は不可能となる。Ofは行為者でかつ被評価者を実現する言語形式であると分析した。 以上のごとく、本研究では、形容詞の意味構造およびそこから導かれる項構造から、形容詞構文の統語的側面が明らかにされた。
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