研究課題
動作動詞の指示対象の構造をもちいてその意味記述を行う方法を昨年度まで検討してきた結果、運動伝達の様相構造をその意味記述の一部とする分析法を提案した。これは概略以下のようである。1.動作主体の簡略な骨格の各部を、関節から関節(または端点)への有向グラフとして表す。すると、骨格全体の関節と端点(頂点)による有向グラフ集合で表される。2.それぞれの動作を時間区間ごとの運動に分割する。3.各区間ごとの運動を、頂点間の運動の使役関係の結合に分解する。これを回転式という関数で記述する。4.各頂点がそれぞれ世界に存在し、世界間の接近可能性をその世界に含まれる頂点どうしの運動使役関係(正確には「動かされる」という受動形)で定義する。5.各世界において、そこの頂点が動いているか否かに基づいて運動存在式を真偽で評価する。その式を更に別の頂点を含む世界から評価する。これらの評価条件として回転式をもちいる。すると、各頂点についていくつかの様相式がえられる。これらの式をすべての頂点について区間順に揃えるとえられる構造体を、運動伝達の様相構造とよぶ本年度は研究の最終年度であるので、この研究でえられた成果の言語理論における含意や位置づけをさぐった。当研究は主に視覚で捉えた対象物が意味表示内容の決定の基盤となっている点において極めて認知科学的であり、この意味で認知的な言語諸理論との適合性を調査した。上記の運動伝達の様相構造が、語彙概念意味論の動詞意味定義に用いる概念構造の一部の記述に充当するか否かを検討した結果、当該動詞の概念構造(conceptual structure)にある事象(event)部を修飾するBY節(BY-clause)のなかの局部経路(1ocal path)に属すると仮定すると、矛盾のない動詞意味記述がえられることが明らかとなった。
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Mental States Vol.1 : Evolution,nature,Amsterdam/Philadelphia : John Benjamins(論文集) (印刷中)