研究概要 |
本研究は古英語詩編行間注釈13写本を比較し、基本となるMercian方言のVespasian Psalterとそれに属するAタイプ写本と、West Saxon方言のRegius Psalterとそれに属するDタイプ写本の間の相違点を明らかにすると共に、Dタイプに属する写本間の関係を明らかにする試みであった。成果の最も大きなものは、AとDの比較において名詞・形容詞・副詞等の語彙のみならず、動詞の前綴り、変化語尾、機能語、語順等の違いも詳細に比較することにより、何が相違点として重視されるべきかを明らかにしたことにある。この基本資料は報告書の後半部分であり、これを活用して他写本での異形を見ることにより、同一タイプでのA, Dからの距離、各写本の独自性を知ることができる。結果としてPeter Kitson(2003)のstemmaを大きく変えるような事実はないものの、AタイプのJunius PsalterとCambridge PsalterについてはWest Saxonによる書き直しであるため更なる調査が必要なこと、DタイプのLambeth Psalterの独自性、12世紀のEadwine's Canterbury Psalterの過渡期写本としての重要性が再確認されたことも付け加えたい。この研究の遂行にあたり、国内においては東京大学、京都大学、東京外国語大学、名古屋大学、中部大学、大阪大学、九州大学、福岡大学、信州大学、筑波大学、関西外国語大学において学会発表や研究会の開催に合わせて資料収集と類似分野の研究者との打ち合わせを行い、国外においては2002年も含めLondonのBritish Library, OcxfordのBodleian Library, CambridgeのParker Library, University Libraryでの写本調査と、Glasgow, Vienna, Munich, Poznanの各大学図書館においての資料収集、また国際学会・研究会において発表・講演を行い、成果の一部を公表した。
|