研究概要 |
本研究は、後期古英語の'Judgement Day homilies'のうち、とくにVercelli版の系譜に属する作品群(Vercelli Homily IIと後にそれに改変を加えて発展させたVercelli XXI, Fadda X, Napier XLなど)のテキストと言語についての比較研究である。「最後の審判の日」は古英語説教散文の中心的なテーマであり、AElfric, Wulfstanなどの個別の作品については、とくにsource studiesの観点から既に多くの研究があるが、散文史の上で最も重要な「説教散文の伝統」もしくは「系譜」の観点から、関連作品群の内容の変容と言語・文体の変化を扱った研究は、今日でも依然としてほとんど行われていない。したがって当該の一連の説教作品のテクストと言語についての徹底した包括的な研究がいま求められている。 本研究課題の初年度に当たる今年度は、基盤整備として、まずVercelli Homily IIを改変して利用した後代の作品コーパスを網羅的に調査確定し、対応箇所を逐一明らかにし、それらをVercelli IIの原文と対比したパラレル・テクストのデータベースを作成した。関連研究としてはJonathan Wilcox(1992)があるが、これは単一の作品との比較を行うにとどまり、「系譜研究」という本研究の目的とは大きく異なる。そこで、先ずこのWilcoxの研究をもとにしつつ、さらに徹底した調査によって「系譜」の全容を明らかにすべく努め、その結果得られた作品群(上記3作品、計6写本)の全体についてVercelli Homily IIの原文とパラレルに並置した版を編集し、これをほぼ完成した。その際、未校訂の写本(Napier XL, MS Hatton 114)については、原写本のマイクロフィルムに基づいて新たにテキストを校訂した。作成したデータベースは電子化した。以上によってテクスト間の異同が一目瞭然となり、精度の高い、しかも高速な比較照合が可能となり、次年度以降のこれらの作品の言語についての研究態勢を整えることができたと思っている。
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