研究概要 |
本研究は、後期古英語の‘Judgement Day homilies'のうち、とくにVercelli版の系譜に属する作品群(Vercelli Homily IIと後にそれに改変を加えて発展させたVercelli XXI, Fadda X, Napier XLなど)のテキストと言語についての比較研究である。「最後の審判の日」は古英語説教散文の中心的なテーマであり、AElfric, Wulfstanなどの個別の作品については、とくにsource studiesの観点から既に多くの研究があるが、散文史の上で最も重要な「説教散文の伝統」もしくは「系譜」の観点から、関連作品群の内容の変容と言語・文体の変化を扱った研究は、今日でも依然としてほとんど行われていない。したがって当該の一連の説教作品のテクストと言語についての徹底した包括的な研究がいま求められている。 課題研究の初年度にはまずVercelli Homily IIを改変して利用した後代の作品群と原文とのパラレル・テクストのデータベースを作成、次にこれら作品群の一つNapier XLの一異本(Hatton 114)の原写本に基づく新たなテクストの校訂を行い、これをほぼ完成した。最終年度の今年度は、以上の基礎資料をもとにして、Vercelli版‘Judgement Day Homilies'の系譜の言語の研究を統語法・文体を中心として行なった。即ち、Vercelli Homily IIとそれを改変したVercelli Homily XXI, Fadda X, Napier XLを比較検討して、(1)後代の三作品はそれぞれ別個にVercelli IIを書き直したものである。それぞれが独自の文体で書かれており、この時期の多様な散文体の一端を窺わせている。(2)Napier XLの4異本について言えば、それらの間には互いに直接の依存関係は認められず、むしろこの作品の受容の歴史と発展を示している。(3)とくにNapier XL(CCCC419版)には「最後の審判の日」に関する内容上の重要な変化が見られる。またCCCC201版は統語面で新しい変化を示していること、などを明らかにした。これらの成果は、当該作品の‘Judgement Day Homilies'の伝統の中における位置づけ、さらには古英語後期の散文体の発達や系譜関係を考察するうえで、意味のある成果だと考える。これをもとにして、ほぼ同時代のAElfricやWulfstanなどの「リズミカルな散文」とも比較することによって、後期古英語から初期中英語期にかけての散文史研究を引き続き進めていきたいと思っている。
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