英語強勢変異形の出現環境とその出現メカニズムについて、文献で2つ以上の強勢形が指摘されている形容詞の強勢変異形の分布を分析することによって明らかにすることを試みた。予備調査で候補となった統語的、音韻的環境に問題となる形容詞が現れるようにオンライン・コーパスを用いて文脈を絞り込み、それらをランダムに並べて被験者である20名のイギリス英語母語話者に提示、読み上げ文脈における変異形を録音し分析するという手法を採った。 分析の結果、該当する形容詞の中には文献で指摘されているような揺れがほとんど観察されないもの、個人間変異は観察されるものの個人内変異は観察されないもの、そして、個人間変異と個人内変異の両方が観察されるもの、の3種類に分類できることが判明した。1番目の変異は変化の方向が明らかであり、言語変化の進行程度を示すひとつのモデルであるS字状カーブにあてはめると、変化の拡散速度が鈍る、変化の最終段階であるとみることができる。これに対し、2番目、3番目の種類の変異は、まさにイギリス英語における現在進行中の変化である。 強勢位置を問う際には通常、「文の最後の内容語」が中立的な位置として用いられる。本研究は、叙述的用法の形容詞がこの位置に現れたときと、限定的用法として形容詞のシスター・ノードが右枝分かれ構造をもつときでは異なる強勢形をもちうることを実証し、変化の引き金となる環境を特定した。今後は、統語処理の理論的枠組みにおける音声変異データの説明可能性を追究していく。
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