本年度は、文献において英語の主強勢の置き方に複数あるとされる形容詞について、昨年度に引き続き録音資料の分析を進め、個人内変異および個人間変異の分布を詳細に検討することによって、以下の点を明らかにした。 1.強勢変異形の出現環境として音声的要因と統語的要因が挙げられる。 (1)音声的要因:強勢の置かれる音節間の距離を測り、英語の好韻律性を可能な限り確保する。 (2)統語的要因:形容詞が限定用法か叙述用法かによって変異形の出現が左右されることがある。また、限定用法の場合、形容詞が右枝分かれの姉妹接点をとるかどうかで変異形出現が左右される。 2.強勢変異形の変異分布状況に2種類ある。個人間でも個人内でも変異が観察されるタイプと、個人内の変異は観察されず、どのような文脈においても常に一つの強勢型しか用いられないタイプである。前者については言語内要因との相関関係を指摘し、後者については言語外的要因としての年齢との相関の可能性を指摘した。 3.音声的要因と統語的要因のどちらがより強く働くかについて、コーパスから選定した提示文を使用した実験では音声的要因のほうが統語にまさる、というのが今回の結果であるが、この点をさらに追求するには十分にコントロールされた実験が必要となる。 4.並列する単語間の強勢衝突だけでなく、句レベルの音声処理という観点から音声と統語のインターフェイスを考察すると、強勢変異形出現は上述の2つの要因の強弱による結果とみなすより相乗作用とみなすほうが音声資料をより良く説明できる可能性があり、最終年度となる来年度はこの点から考察を進めていく。
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