中英語(Middle English)頭韻詩における音の繰り返しの意義、文芸手法として果たす言葉の役割について、特に中英語の韻文や散文に口承様式の定型表現が存在したか、に関する研究で行った今年度の実績は以下のとおりである。 1.7月に英国リーズで開催された国際中世学会で研究発表を行った。発表題、"Habitual Use of Certain Syntactic Structures in the Second Half-Line of Middle English."セッションの司会を務めたブリストル大学Ad Putter教授とは、2003年米国カラマズーの国際中世学会で研究発表をして以来の再会となり、中世英語の音韻やリズムについて意見の交換ができた。学会の前後で訪れたオックスフォード、エジンバラ、ロンドンでは図書館を巡り資料収集ができた。 2.7月後半は、京都大学大学院で中英語頭韻詩についての集中講義を行った。大学院と学部4年生で、この種の特別講義にしては多くの参加があり、文学、言語学、文献学、辞書学などの観点から古英語、中英語、特に中英語頭韻詩を分析し、若い人たちの反応から学ぶところが多かった。また8月末には国際基督教大学大学院言語学セミナーで特別講演をし、英語の歴史と現代言語学の在り方について、この科研費研究でおこなっているデータ分析の方法と背景となる理論について説明した。中英語頭韻詩は、日本ではまだ研究者が少ない分野であるが、こういう機会を通して若手研究者への啓蒙活動ができた。 3.テクストの入力と語順の分類は順調に進み、少し対象範囲を広げようと考えている。中英語頭韻詩における語の並び方を、行全体、後半行ごとに分析したものと、後半行の最初に来る語とその品詞により並べ替えたものと、ひとつの作品につき4種類のデータを用意し、定型表現といえる繰り返しの使われ方があるか詳細に調べている。来年度は最終のまとめの年であるから、全データの分析と統合、議論の構築がこれからの課題である。
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