この研究の目的は、中英語(Middle English)のリズム、音韻、文体、特に、中英語頭韻詩における音の繰り返しの意義、文芸手法として果たす言葉の役割について、口承様式の定型表現(formulaic expressions)を古英語の伝統から始めて包括的に研究することによって、言葉による遊びが英詩の伝統が形成されるなかでどのようにして文芸にまで高められていったかを解明することである。中英語は現代英語へつながる過渡期の言語として重要な位置を占めるものであるが、ロマンス語の影響や英語自体に起こった著しい言語変化等言語自体複雑な様相を呈するうえ、ヨーロッパの歴史的社会的背景がさまざまに絡み、古英語より解明が難しいとされている。この研究では、口承様式の定型表現を集め、音韻と統語の関係を明らかにし、12世紀から15世紀までのあいだに英語文芸活動が頭韻詩という形態において辿った変化の再構築を目的とする。 研究費補助金受給最後の年となった平成18年度は、データベースの最終的なまとめとそれに基づく分析を行い、研究成果を形にまとめることに従事した。中英語頭韻詩における定型表現を現存する作品から抽出しデータベースを作成し、そこから定型表現の使われる条件と言語芸術としての効果を導き出し、コーパスデータとして整えた。将来にわたってこのコーパスは中英語のリズム、語順、文法を調べるうえで有益な資料を提供するであろう。また英国中部の方言が12世紀から15世紀のあいだどのような様相を呈していたかについて考察する際にも役立つと思われる。 今年度の学会発表は、6月に日本中世英語英文学会において「中英語頭韻詩に定型表現は存在するか-The Alliterative Morte Arthureの連語類型から」という題で研究発表を行った。また、8月には英国オックスフォード、ロンドンを訪ね、ボドレイアン図書館と大英図書館での最終の資料収集と英国研究者との意見交換を行った。助成金は使えなかったが、3月にはベルリンを訪ね、ドイツ国立図書館でゲルマン関連の写本や資料を閲覧することもできた。
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