この研究は、中英語頭韻詩(Middle English Alliterative Verse)の韻律について、現代言語学と伝統的書誌文献学を融合した韻律研究方法により分析したデータと研究成果の集大成である。頭韻の制約の中で、音の繰り返しの意義と、語の組み合わせ、すなわちcollocation(連語)が果たす役割について考察し、中英語の韻文や散文に口承様式の定型表現が存在したか解明を試み、主立った中英語頭韻詩の分析データを蓄積することができた。そのデータを更に多面的に分析して中英語頭韻詩の特徴ごとに検索しやすく編集し、定型表現のように繰り返し登場する同一あるいは酷似したcollocationが、韻律の枠組みの中でどのように機能しているかを考察した。報告書では研究の基礎となる先行研究と英語史、英語音韻の特徴について説明した後、4つの研究成果を紹介した。これまでの研究成果は、国内学会での研究発表3編、国際学会での研究発表4編、国内外の学術誌に発表した論文9編である。 中英語は、複雑な音韻変化、語形変化の単純化、おびただしい数のロマンス語語彙の借用など言語自体複雑な様相を呈するうえ、ヨーロッパの歴史的社会的背景がさまざまに絡み、古英語より解明が難しいとされている。そのため、中英語頭韻詩の韻律研究は、古英語頭韻詩の韻律ほどには研究者の合意を見ていない。本研究では、近年盛んになったコーパスを用いて頻度や総合的分類から研究する方法を用い、繰り返し登場する一定の語のcollocationに注目し、それぞれの作品の中で口承様式の定型表現を集め、音韻と統語の関係を明らかにした。また、個々の作品の特徴と全体に共通するテンプレートを明示することで13世紀から15世紀のあいだに英語文芸活動が頭韻詩において表現しようとした繰り返し表現の意義を明らかにし、言語変化の再構築に迫ることができた。
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