研究概要 |
平成15年度科学研究費による研究実積を以下三つに分けて略述する。 第一は、MaloryのWinchester写本(以下Wと略称)とCaxton版(以下C)の否定離接的接続詞に関するものである。古期英語ではneの反復により、また今日の英語ではneither〜norによって表わされる表現が、WやCの時代(15世紀後半)にはこれらの接続詞は勿論のこと、他にnother, nouther等も存在し、複雑な様相を呈していた。そこでWとCにおけるこの表現の異同をexhaustiveに校合し、印刷に当たってCaxtonが自己の言語習慣に合致するようどの程度改訂をおこなったかを明らかにした。この調査結果は、WとCの書誌学上のいくつかの謎を解く手掛かりも提供している。この論文は、スロバキア共和国コメニウス大学英文科創立80周年記念論集(PHILOLOGICA 2004)に、依頼されて寄稿し、現在印刷中である。 第二は、Wの定冠詞や不定冠詞が、Cのreadingsに基づき改訂される例が、FieldによるMaloryのVinaver版改訂第三版(1990)やHelen CooperによるOxford World's Classics版(1998)に見られるが、それらの改訂は断片的であるので、WとCの定冠詞と不定冠詞のtextual variantsを余すところなく収集し、校訂が必要か否かを論じ将来の校訂者のための資料提供を行った。この論文はMalory学の大家、P.J.C.Field博士の退官記念論文集(英国D.S.Brewer社から出版)に掲載されることになっていて、すでに校正は終わっている。 第三は、WとCの接頭辞の異同を扱ったものである。古期英語の接頭辞は、基語と分離し動詞副詞結合を形成するようになるか、全く消失するか、またはそのまま存続するかのいずれかの道を辿ったが、この研究ではWとCにおけるtextual variantsの実態を明らかにした。この論文は中部大学人文学部紀要第11号(2004年1月刊)に掲載されている。 以上の研究に際し、科研費の恩恵が多大であったことを付記させて頂く。
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