研究概要 |
英語には三人称単数の代名詞のなかで男女を区別しない代名詞、いわゆる通性代名詞(epicene pronoun)は存在しない。そこで、everybody, anyoneなどの不定名詞(indefinite noun)やspeaker, personなどの男女の区別がない通性名詞をどのような代名詞で受けるのかに関しては、これまで、様々な議論がなされてきた。1960年代後半から盛んになったフェミニズム(feminism)の影響により、不定名詞や通性名詞は従来のheで受ける正用法に加えて、それまで正用法と見なされていなかった、they、he or she、s(he)、he/sheなど、いくつかの代名詞が使用されるようになっている。しかしながら、これらの用法は、未だに安定した用法と見なされるまでには至っていない。本年度は、この種の通性名詞、不定名詞に対する照応形としての代名詞の用法を、1960年代、1970年代を中心に、話しことば、書きことばについて用例を収集した。 また、このような変化を研究するには、英語の歴史を遡る通時的研究を行う必要がある。そこで、本年度は、Murray(1795),Jespersen(1949)など、過去の英文法の研究書、および様々な文献やコーパスの中で不定名詞や通性名詞がどのような代名詞で従来、照応していたのかを研究した。その結果、she or heのような二重代名詞の用法は、一般に、フェミニズムが盛んに議論されるようになってから生まれたものと思われているが、実は、この用法は18世紀以前の英語にも、しばしば使用されてきた用法であり、その用法が、フェミニズムの台頭とともに1970年以降、再び復活し、多用されるようになったという知見を得た。
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