研究概要 |
ジェンダー研究は、1960年代の後半から欧米を中心に様々な角度から研究されるようになった。我が国においても、1980年代から主に社会学的見地から活発な研究がなされてきているが、言語学的見地からのジェンダー研究は欧米と比較すると低調であると言わざるを得ない。本研究の目的は、社会言語学の観点から英語の代名詞や名詞表現を中心にジェンダー研究を行うことである。本研究では、フェミニズムの影響で、わずか30年という極めて短い間に、代名詞や名詞表現に関して英語がどのように変貌しようとしているのかを、英語の書きことば、話しことばの両面からコーパスを含む様々な資料に基づいて、実証的に研究した。まず、ジェンダーと言語を初めて本格的に取り上げた、Otto Jespersen(オットー・イェスペルセン)のジェンダー論を俎上に載せ、その新しさと古さを指摘した。Jespersenなどの歴史的ジェンダー研究を終えたあと、1960年代以降のジェンダーと言語の変化の研究に取りかかった。英語には三人称単数の代名詞のなかで男女を区別しない代名詞、いわゆる通性代名詞(epicene pronoun)は存在しない。everybody, anyoneなどの不定名詞(indefinite noun)やspeaker, personなどの男女の区別がない通性名詞(gender-indefinite noun)をどのような代名詞で受けるべきかに関しては様々な議論があり、現実に話され、書かれる英語もいまだに不安定な状態が続いている。本研究では、その実体の分析を記述的に行った。また、manやchairmanの意味と用法の変遷を実証的に研究した。
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