本研究の目的は、日本に定住するインドシナ難民に焦点を当て、彼らが形成している民族アイデンティティがどのようなものか、民族アイデンティティにどのような要因が影響を当てるのか、母語及び日本語能力はいかなるものかを明らかにすることである。質問紙調査及び聴き取り調査によって、以下のことが明らかになった。 自民族に対する帰属感や、自民族のアイデンティティに関する模索は来日年齢が10歳未満と10歳以上で、強さが異なっていた。来日年齢が10歳未満の場合、民族アイデンティティは弱いことが示された。また、民族アイデンティティの象徴である名前や国籍・結婚相手に関しても、来日年齢が10歳未満と10歳以上の間に境界があった。 母語能力・日本語能力に関しても、10歳未満と10歳以上の間に境界があることが明らかになった。10歳未満で来日した場合、母語能力が低く、逆に日本語能力は高い。また、来日年齢が10歳以上の場合、滞日期間10年以上を経ないと、日本語能力の習得は十分でないことが推察された。 民族アイデンティティに影響を与えるものとして、母語能力と日本語能力は密接な関連があることが示された。母語能力の高い者は自民族への帰属感や興味関心が強い。また、自民族に対する日本人の評価が高いと認知すると、自民族への帰属感が強められる一方で、自民族の象徴を保持しようとする態度は弱められる。最後に、自民族への帰属感は自尊心を強めることも明らかになった。
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