本研究は、日本語教育場面で生じた葛藤の解決方略と、その背景にある教育価値観との関連を明らかにすることである。すでに開発した教育価値観尺度(加賀美・大渕、2002)を用いて、日本人日本語教師、中国人学生、韓国人学生、日本人学生の異文化間比較を行った研究では、単一的価値観を持つ中国人、中間的価値観を持つ韓国人、複合的価値観を持つ日本人というアジアの3か国の教育価値観の3類型が見出された(加賀美、2004)。この実証的先行研究から、平成15年度では、教育価値観の各次元が葛藤解決方略にどのように影響するか、文化的視点を加味して実証的に検討することを目的に質問紙調査が実施され、統計的分析を行った。まず、学生集団間における教育価値観の差異を明らかにするために、教育価値観の12下位尺度を独立変数に用いて学生集団間の判別分析を試みた。これによると、日本人学生は、教師の専門性、学生の学習意欲と規則遵守を重視し、中国人学生は、教師の学生尊重、学生の従順さ、それに教育の創造性開発機能を重視している。一方、韓国人学生は、学生の規則遵守と従順、教育における文化的視野を重視していた。次に、葛藤解決方略の選択が学生集団間で異なるかどうか、また、それが教育価値観によって影響を受けるかどうかを検討するために、階層的重回帰分析を試みた。教育観価値観と葛藤解決方略の関連においては、特に、「従順と服従方略」、「教師主導、創造性と服従方略および対決方略」、「熱意と回避方略および対決方略」の関連が深いことが明らかになった。また、中国人学生は教育価値観と葛藤解決の間に整合した関連があった。韓国人学生は、教育価値観と協調や服従などの宥和的方略においては3か国の学生間では中間的であったと同時に、対決方略と文化視野については関連が認められた。日本人学生は複合的な価値観をもつために、葛藤解決方略も明確に選択されなかったことが示唆された。
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