研究概要 |
本研究は、異文化間の教育場面で生じた葛藤の解決方略とその背景にある教育価値観との関連を明らかにすることである。45項目の教育価値観尺度(加賀美、2004)を用いて、中国人学生、韓国人学生、日本人学生を対象に質問紙調査を実施し、31項目から成る短縮版教育価値観尺度を開発した。これを用いて上位因子分析を行い、4つの包括的教育価値次元(自己実現的価値次元、伝統(権威)主義的価値次元、自由主義的価値次元、社会貢献的価値次元)を見出した。包括的価値次元の学生集団間比較では、日本人学生は自己実現的価値、自由主義的価値を重視し、中国人学生は伝統(権威)主義的価値を重視していた。韓国人学生はそれらの中間に位置していた(加賀美・大渕,2006)。包括的価値次元と葛藤解決方略との関連は、自己実現的価値を重視する学生は服従、協調方略を選択し対決方略を選択しない傾向が見られ、伝統(権威)主義的価値を重視する学生は対決方略を選択することが示された(加賀美・大渕,2005)。また、社会心理学におけるHofstede、Chinese Culture Connection、Schwartz他の一般的価値観の研究動向を概観し、その異同についても検討した。その結果、それらは自律性、保守性、支配性、平等性の4つの共通次元に集約できた。一般的価値観と教育価値観の4つの包括的次元との関連を理論的に検討した結果、一般的価値観次元の保守性、支配性は、社会秩序と序列的な人間関係を表すため、伝統(権威)主義的価値と対応することが示された。一般的価値観次元の平等性は人々の平等を表すため、自由主義的価値に対応することが示された。それ故、この2包括的価値次元は一般的価値観次元との共通性が見出された。しかし、自己実現的価値観次元と社会貢献的価値観次元は、一般的価値観次元との相違性が見出され、これらの2次元は教育価値観次元の独自性を示すものであると考えられる(加賀美・大渕,2005;加賀美,2006)。
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