研究概要 |
本研究は,日中両言語の対照研究の知見にもとづき,中国語を母語とする日本語学習者に対する日本語教育に役立つ文法教材を開発することを目的としている。平成18年度は,これまでの研究成果を発表することに重点を置くとともに,4年間に行った研究の成果を報告書にまとめた(A4判98ページ)。平成18年度には,次の論文執筆と口頭発表を行った(論文は平成19年4月以降に刊行予定)。(1)対照研究の方法論に関するもの(井上優「日本語研究・中国語研究と日中対照研究」(口頭発表・論文)),(2)言語教育のための対照研究に関するもの(張麟声「言語教育のための対照研究について」(口頭発表・論文)),(3)教育上重要な相違点に注目した日中対照研究(井上優「事象の個別具体性と言語表現の具象性」(口頭発表),井上優「待機状態設定を表すシテイルについて」(口頭発表)),(4)日本語教育上重要な表現に関する研究(森山卓郎「談話におけるエコー表現-相手の発話を受ける「ね」「ねえ」「か」を中心に-」(論文))。(1)の研究では,個別言語研究の観点と対照研究の観点が本質的に異なる点について論じた。(2)の研究では,対照研究のタイプについて論ずるとともに,言語教育のためにどのようなタイプの対照研究が必要かについて論じた。(3)の研究においては,文法カテゴリーとしてのテンスを持つ日本語と持たない中国語とでは,いくつかの点で言語表現の成立を支える原理が異なることを論じた。(4)の研究では,相手の発話の一部を繰り返す発話に注目して,談話の中での文と文のつながりのあり方について考察した。
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