近年、コンピュータを利用した言語教育(CALL)が注目を浴びている。特に、インターネットの普及に伴い、ウェブを利用した日本語学習システムに関する研究・教材開発も活発に行われるようになってきている。しかしながら、これまで開発が進められてきたシステムは、漢字学習・文法学習・読解などが中心になっていることが多く、しかも大学に在学している上級日本語学習者のニーズに合ったものは必ずしも多いとは言えない。 一方、大学に在学する留学生からは、「日常会話には困らないのに、大学の講義が理解できない」、「講義に耳を傾けているとノートが取れない」といった声が絶えない。専門用語に関する知識の欠如ばかりでなく、日本語による講義・講演で多用される表現、接続表現等による談話の展開などに不慣れなこと、テレビの教養番組等と違って、実際の講義では、言い間違いや言い淀みなども多く含まれることなどが学習上の障害となっていると考えられる。 このような実状を踏まえ、本研究では、日本語能力試験1級レベルの上級日本語学習者が日本語による講義・講演を聴く際に必要となる日本語力(アカデミック・ジャパニーズ)を高めるためのWeb教材を開発している。この教材の特色は、以下のようにまとめられる。 (1)実際に行われた大学での授業・講演の映像と音声を素の生資料を用いる。 (2)専門分野への橋渡しとなるよう、学経済学・経営学など社会科学分野の基礎科目を素材とした。 (3)CGIを用いたテストやワークシートを用意し、インターネットを通じて提出できるようにした。これにより、遠隔教育用の教材としても活用できる。 (4)大学の授業・講演の内容を把握するために必要な言語要素・言語表現のリストを付した。 開発したWeb教材については、学内LAN内で限定的な公開をし、改訂作業を行っている。また、2004年8月に開催されたコンピュータ利用教育協議会年次大会(2004PCコンファランス)において教材開発の内容についての報告を行った。
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