研究概要 |
第二言語習得研究に於いては、その初期から、第二言語学習者に特有の誤りが見られることが明らかにされ、その研究の重要性が指摘されてきた(例Coder1967)。日本人の英語学習者の産出に含まれる誤りについても、さまざまな角度から研究がなされてきている。本研究で特に問題とする3人称単数主語との一致を表す動詞形態素の-s、およびbe動詞の活用形(is,am,are,was,were)についても、多くの研究がなされている。これまでの研究では、日本人英語学習者の発話において、ある形態素を別の形態素よりも脱落しやすい(あるいは、誤った形を使いやすい)という結果が出ており(例Shirahata1988)、その結果から、第二言語習得および第二言語使用において、いわゆる言語習得装置や言語処理装置の働きが見られると考えられているもの、どのような形でそれらが関わっているのかについては、以前、明らかにされていない。本研究では、いくつかの仮説を立て、文コンテキストをコントロールした上で実験を行った。その結果、理解タスクにおいては、人称と数の素性に対する敏感度の違いが見られた。また、産出タスクにおいては、主語と動詞の線的距離ならびに構造上の距離によって、3単現の-sの脱落の度合いに違いが見られた。これらの違いは、生成文法に基づく言語のモジュラー性に則ったモデル(Wakabayashi,1997)では説明がつくがプロセス可能仮説や競合モデルでは説明できない。このことから、第二言語の使用は、母語の使用と同様に、生得的言語能力に基づくものであることが強く示唆される。
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