本研究の目的は、英語母語児の日本語習得過程と日本語母語児の英語習得過程をその初期段階から観察・比較対照することにより第2言語習得過程に及ぼす第1言語の影響と文法構造の習得を規定する言語の普遍的要因および個別的な要因を明らかにすることである。平成15年度には英語母語児3名(3歳、8歳、11歳児)の日本語習得過程を自然発話データと実験データの収集を縦断的に行いながら観察した。平成16年度には、前年度収集した日本語データと、それ以前に収集した日本語母語児2名(4、10歳児)による英語の自然発話データをCHILDESのCHATフォーマットで順次文字化しながらデータファイルの作成を行った。この文字化作業は非常に多くの時間を要するため、新たな研究補助者もトレーニングしながら、作業を継続していく。次年度にはデータファイルの完成と実験データの分析を完了させる。 本研究では、日英語の文法発達に関し、特に以下の3点に焦点を当てている。 (1)動詞と項構造(非能格自動詞、非対格自動詞、他動詞など) (2)日本語の格助詞(「が」「を」「に」など) (3)文法的形態素(日本語の自動詞化・他動詞化「-are/-ase」、英語の受身「be+V-ed」など) (1、3)に関しては、おとなの第二言語学習者でも日英語において自動詞を2分する知識をもつことが先行研究で報告されているが、母語を問わず学習者に共通に観察される誤りもある。例えば、英語の自動詞に受身の形態素を過剰に使用する誤りである。この誤りの要因を探るため、日本人の英語学習者20名を対象にした実験を行ない、その成果を国際学会で口頭発表した(GALANA (Generative Approach to Language Acquisition North America)ハワイ大学2004年12月)。おとなの第2言語学習者が犯すこの種の英語の誤りは、子どもの母語習得過程には観察されないとされるが、子どもの第2言語習得過程においては観察されるかどうか、今後さらに検討を重ねていく。
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