本研究は、近年のそれぞれのナショナルな枠組みで進化されてきた研究を踏まえて、日本、及びアメリカの植民地支配・植民地主義の比較研究をおこなった。当初は、日本の台湾、朝鮮における統治形態を念頭に置きながら、特に1898年より始まるアメリカによるフィリピンにおける植民地政策、いわゆる「友愛的同化」(Benevolent Assimilation)の内実を示す基礎文献・資料の収集・分析に時間を費やした。その過程を通して、フィリピン植民地統治の実証的研究が遅れているため、植民地支配体制の根幹である官僚制度についての基礎資料収集にシフトした。 その後、Paul Kramerジョンズ・ホプキンス大学助教授(現インディアナ大学准教授)などとの交流を通して、植民地主義の性格を最も典型的に示すのは、植民地における官僚制、司法制度を如何に構築するのか、あるいはその制度の運用において見出せた。そして、「立憲主義」と植民地支配との関係が、この問題を解き明かす鍵であることが明かとなってきた。換言すれば、日米に植民地支配を共通の俎上で分析するツールとして、「立憲主義」をパラメーターとして用いることが出来ることに思い立った。とくに台湾、フィリピンにおける植民地支配体制の成立に関して、その歴史的・思想的背景を考察した。アメリカにおいて、1900年前後にまとめられた、数多くの植民地制度に関する研究を参照しながら、一方で、日本の植民地官制を、世界史的脈絡に位置づける作業も同時並行して行ってきた。 日米の植民地統治は、それぞれの一国史的な問題ではなく、一つの新たな世界史的な共通性を持ち、新たな歴史的段階の産物であったことを示し、本研究の結論とした。 2007年度以降、ハーバード大学燕京研究所において2008年度途中まで客員研究員として滞在するため、その間研究成果を単行本として出版できるようにまとめる予定とした。
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