本年度は前年度の研究の進展をふまえて、韓国の研究者との交流に力を入れた。私費も含めていくつかの学会に出席し、また研究会その他でかなり意見の交換をした。ちょうど、韓国では、植民地期の研究が活発となり、そこで近代性や植民地性、そしてそれと関わる脱植民地の問題がかなり論じられている。東亜協同体論の評価や親日派追及の是非が、韓国政界の動きと連動するかたちで進行し、筆者にとっても現実と学問研究の並進という意味でわくわくする思いであった。 最初から予期したように、今年度は、近代性、植民地性、脱植民地主義の問題設定と関連しつつ、東アジアの植民地主義の実態を理解するのに大きな成果があったと言える。ある意味で過去と現在を整理するのに、かなり自信がついてきたとも言えようか。 ただ日本国内の研究動向と関連していうなら、この分野における研究の希薄さ、そして研究の方向性の曖昧さなどからして、筆者にとってはそれほど興味のわくものはなかった。もっと韓国をはじめとする東アジアの動向、あるいは研究関心を共有する方向に日本の研究者も向かうべきではないかと思う。 今年度に活字になった論文はほぼ本研究の課題に沿ったものばかりであった。ナショナリズムと植民地支配、朝鮮半島と<帝国>、日本学研究における脱植民地主義の課題、最近の韓日関係と記憶の問題、であるが、これらはいずれも、日本と韓国の思想史的研究、比較史研究の一環として、近代性、植民地性、脱植民地主義の課題を意識しながら書いたものである。 補助金の使用という意味では、韓国への出張が多かったこともあり、それへの支出が少なくなかった。資料の入手に関していうなら、基本的には購入のタイミング、ウォンによる支払いなどのため、個人払いのケースが多かった。
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