本年度の当初の計画では、第一に貴族の居住形態を邸宅の貸借・融通関係から分析し、第二に平安京の住人の居住や住宅を発掘遺構や文献の小屋などから検討し、第三に内裏・貴族住宅・町屋の方向性(東西と南北の優越性)を取り上げる予定であった。このうち、第一は残念ながら取り組めなかったが、第二・第三の課題は綿密な計画のもとに研究会を組織し、文献・考古・建築・造園の各専門家の報告を得て、予想以上の成果をあげた。 第二の都市住人の居住や住宅については、町屋の成立に焦点をあて、初期の町屋の発掘遺構を網羅的に考察し、また中世や近世の町屋遺構を考古学と建築史から再検討した。さらに、文献では小屋が町屋に相当するので、小屋や小宅を取り上げ、小屋の内容を詳細に分析した。遺構や小屋を総合し、従来の町屋成立論を一新させ、11世紀に平安京で町屋が成立すると結論づけた。 第三の方向性の問題は、宮城の対称性、平安貴族住宅の正門、平安京の街路と宅地、の三報告を準備した。対称性(方向性)の起源を中国・朝鮮に追究し、貴族住宅の正門が南北から東西方向へと変化する過程を分析し、さらに平安京の宅地と大路・小路の方向性を取り上げた。宮城(内裏)と貴族住宅・平安京の相互の関連などが課題に残された。
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