古代官大寺の研究としては、東大寺前身寺院の検討を行なった。金光明寺時代の堂舎・僧侶・法会に関する史料を収集し、それらがどのように東大寺に受け継がれていくかを分析した。その概要は「大養徳国金光明寺」として発表し、法華堂が金光明寺金堂とする学説が成立しがたいこと、天平16年頃に「丈六堂」が建立(もしくは整備)された可能性を考えるべきこと、などを論じた。次年度には史料収集を完了し、本格的な論考としてまとめたいと考えている。また古代寺院の活動を分析する作業の一環として、古道踏査を行なった。大峰奥駈道から高野山に至るルートと、吉野から壼坂峠・中ツ道を経て奈良に至るルートなどである。後者においては、大后寺とその所領を考える手がかりを得た。 次に寺領荘園の研究としては、まず古代弘福寺領の研究を進めた。平安時代の免除領田制史料が基本となるにもかかわらず、『平安遺文』に誤りが多いため、奈良国立博物館・天理大学附属天理図書館・東寺宝物館に所蔵される原文書を熟覧し、正確な釈文の作成につとめた。詳細な検討の結果、田所丹勘の読みがおおむね確定し、それらが土代に基づいて付されたものである可能性を想定するに至った。なお熟覧と同時に、カラー写真の収集も行なった。一方、荘園故地の踏査も進め、大和国高市郡寺辺所領、山城国久世郡所領、讃岐国山田郡所領などを現地に即して検討し、古代寺領荘園の一円的構造に関する認識を深めた。また古代興福寺領については、維摩会とその料田に関する研究を行ない、前身寺院山階寺・厩坂寺の位置についてもほぼ推断できる段階に至っている。
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