日本古代の政治・経済・宗教を考える上で重要な官大寺とその荘園について、実態的な検討を加えた。官大寺については、東大寺の成立過程を従来よりも詳細に跡づけ、国分寺政策との関連を明らかにした。また官大寺の法会を、王宮法会を視野に入れつつ、実像を復原した。寺領荘園については、弘福寺・興福寺・東大寺・大后寺の荘園の特質を、史料調査・現地調踏査の両面から具体的に考察し、その分布・沿革・経営実態を解明した。特に顕著な成果は、おおむね以下の通りである。 (1)古代官大寺の機能について考察を試み、文明化のセンターとしての役割を論じた。 (2)古代官大寺の法会と王宮の法会の関係性を論じ、大極殿の特殊利用法を解明した。 (3)東大寺前身寺院の検討を行ない、金光明寺からの発展継承のプロセスを解明した。 (4)興福寺前身寺院である山階寺・厩坂寺故地を解明し、その発展過程を論じた。 (5)古代寺領荘園の一円的構造を、弘福寺領荘園故地の踏査によって明確にした。 (6)大和国雑役免荘園の成立過程を、東大寺領・興福寺領の双方について解明した。 (7)古代弘福寺領荘園について、免除領田制史料の釈文を作成し、研究の基礎とした。 (8)古代興福寺領荘園について`、藤原鎌足功田・維摩会料田からの継承性を解明した。 (9)東大寺領椹野荘が、長登銅山の積出港に由来するという独自の学説を提示した。 (10)未知の古代寺院・大后寺の歴史を明らかにし、その荘園立地の特殊性を論じた。
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