1.訪中調査関係。本年度の研究実施計画の第一に、「緊急性を有する生存者・遺族の聞き取り調査」を掲げた。そこで平成15年7月に、かつて広島に連行され、帰国後故郷の山東省済南市に在住している中国人の自宅を訪問し、連行時の中国での実態、連行後の労働・居住実態、および帰国後の生活実態について、本人および家族から証言を得た。それを深めるために同年8月に再度訪中したが、同人は逝去された直後であり、家族から貴重な思い出などを聞くことができたとともに、他の生存者や中国側の研究者と面談したが、残された時間が切迫していることを改めて痛感した。 2.国内現地調査関係。日本国内では、秋田県大館、広島県安野、京都府大江山、長崎県崎戸でフィールドワークを実施した。現場感覚を鍛え、現地の住民や研究者と交流するとともに、聞き取りおよび資料収集につとめた。また戦後残された遺骨の中国への送還運動に参加した日本人から、当時の資料提供を受けるとともに、長時間のインタビューを実施した。 3.文献資料関係。平成14年12月および平成15年12月に外務省文書の公開があり、中国人殉難者の遺骨送還に関する資料も公開されたので、それらを複写し、分析に着手しているところである。また厚生省の委託をうけて地方行政が実施した調査記録についても分析に取り組んでいる。 4.戦後補償裁判に関する調査関係。強制連行をめぐる戦後補償のあり方について、実務体験の豊富な弁護士から、専門的知識の教示を受ける機会をもち、とくに安全配慮義務に関する法的論点について知見を得た。
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