1605年に長崎のコレジョ(大神学校)で印刷されたラテン語(一部ポルトガル語とアルファベットによる日本語)による『サカラメンタ提要』という典礼書の中には、その後半部分の「葬儀のための典礼」の箇所に、点々と祈りの歌であるグレゴリオ聖歌が19曲収録されている。それらは、五本の譜線が朱色で、また当時ヨーロッパで用いられていた特殊な四角い形をした、いわゆるネウマ譜(音符)は黒色で印刷されており、いわば二重式の楽譜印刷で刷られている。まさに日本初の楽譜印刷によるものである。 本研究は、以下の2つを明らかにすると同時に、グレゴリオ聖歌のいくつかをレクチャーコンサートや講演の中で一般の人々に紹介することができた。 (1)今日、東洋文庫と上智大学キリシタン文庫に存在するそれぞれの『サカラメンタ提要』の原本を比較すると、例えば1曲目の「Subvenite sancti Dei」は数カ所の植字ミスと思われる箇所が判明した。また当時のゴツゴツしたネウマ譜の一つひとつの印刷工程をチェックしながら、19曲すべてを今日の五線譜に解読することができた。 (2)19曲中の1つ「Tantum ergo」は、当時のポルトガルとスペインでしか歌われていなかった、いわばローカル聖歌であることを、当時のスペインの作曲家たちの作品の中から証明することができた。 (3)当時の日本で歌われた可能性のあるグレゴリオ聖歌を、折に触れてレクチャーコンサートや16世紀の東西交流史をテーマとした講演の中で実際に演奏したり、CDで紹介することができた。折しも、今年は『サカラメンタ提要』の印刷から400年に当たり、なんらかの形で19曲全曲を演奏する企画をしたいと考えている。
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