本研究の目的は、100点以上現存する中国敦煌・トルファン写本書儀の分類整理を行い、精度の高い校訂本文を作成し、その上で日本古代国家・社会における書儀の受容の実態を明らかにすることである。文字を持たなかった日本の古代社会は、表現媒体として中国の文字である漢字を摂取し、漢字を使って自らの思考や感情を表記するようになったが、その際、実用的な一種の百科全書である中国の書儀は、従来考えられていた以上に積極的に活用されたと推測される。近年中国のすぐれた研究者たちによって、唐代書儀の全容が明らかになりつつあるが、まだ不備も多い。本研究において唐代の代表的書儀の校訂本文作成を目指したのは、そうした現状が背景にある。 一昨年度中国武漢で開催された国際学会で、台湾故宮博物院所蔵の「唐人月儀帖」と敦煌写本朋友書儀との関係を明らかにしたが、本年度は、これに加えてかつて私が学界に紹介した日本個人蔵の朋友書儀写本とあわせ、朋友書儀に関して、校訂本文を作成したことが成果である。いわゆる吉凶書儀については、ロシア所蔵の敦煌文献写真版から新たに何点かのピックアップを行い、また科学研究費基盤研究(B)(課題番号17320096)「在ベルリン・トルファン文書の比較史的分析による古代アジア律令制の研究」(研究代表者:小口雅史法政大学教授)の共同研究者として、本年度10月にベルリン国立博物館所蔵のトルファン文書を調査した際、書儀の類も実見・調査し、これまでの吉凶書儀一覧に追加した(以上研究成果報告書に掲載)。本研究において朋友書儀の分析を進めた結果、日本における初期の往来物についての検討が必要になったと認識した。往来物の中でもとくに「十二月往来」に分類される「古往来」についての考察に今後は取り組むつもりである。
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