研究課題
基盤研究(C)
日中戦争時期の中国国民政府は、長期にわたる総力戦を支えるために、あらゆる物的人的資源を緊急かつ大量に徴発せざるをえなかった。その主な内容は、糧食と兵士であった。一般的にいえば、このような戦時徴発を支障なく実現するためには、末端行政による社会掌握力の強化と、基層社会それ自体の組織性の向上が前提となる。しかし、当時の中国社会においてはいずれの条件も十分には整ってはいなかった。また、教育や情報が行き届かない農村部では、ナショナリズムを喚起して社会的合意を取り付けることも容易ではなかった。この点、赤紙(召集令状)1枚で容易に兵士を召集でき、糧食の把握・統制も厳格に行き渡らせることができた日本の場合とは、状況が全く異なっていたのである。本研究は、このような困難な状況のもとで、糧食・兵士の徴発がどのように実施され、どのような矛盾を伴っていたかという点を、中国大陸・台湾で収集した未刊の行政文書(档案史料)や新たに発掘した地方新聞・稀覯雑誌の類を主要な史料として、四川省を中心にできる限り具体的に分析した。その結果、既存の社会が深刻な混乱に陥りながらも、その中から構造的変容を遂げていく動態を明らかにした。そして、その変容が近代中国の歴史的展開に重要な意義をもったことを展望した。また、その際、同じく厳しい戦時体制下にあった日本の場合と比較する視点を導入し、日本とは異なった当該期中国社会の特質、およびそれが上述の構造的変容を大きく規定していく姿を浮き上がらせた。
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