本年度は以下の研究を遂行した。 1.西暦7-9世紀の間、東方におけるイスラーム拡大の最前線を構成した東部アフガニスタン地域の歴史と社会に関して、これを6世紀以降、同地に勢力を持ち、二つの王国を形成してエフタルや西突厥勢力と連携しながらムスリムの北進を阻み続けたテュルク系の勢力を軸に解明し、これを、従来初期イスラーム時代のアフガニスタンでの存在が予測されていたハラジュとよばれるテュルク系部族と同定することによって、従来全くといっていいほど知られていなかったイスラーム化前夜のアフガニスタンの歴史を系統的に記述することに成功した。考古学的にも8世紀頃を中心とする遺跡や遺物の発見が、この地域で相次いでおり、これらの発見を整合的に解釈するための文献的基礎を提供することができたと考えている。 2.ほぼ同じ時期、海路インド洋方面に進出していったムスリム商人達の動向と、彼らの植民の様相を研究するため、スリランカにおいてフィールドワークを行った。その結果、イスラーム伝播の最初期におけるアラビア半島との結びつきが、現在の同地のムスリム社会の中でどのように位置づけられているか、そしてそれが後にこの島に到来したインドのムスリムやマレーのムスリムとの関係の中でどう解釈されているかという点についての興味深い事実がいくつか明らかになった。この点はさらにフィールドワークと文献調査を進める中で研究を深めていきたい。 なお、インド洋海城のイスラーム化については、文献に残る記録をもとに、交易の活発化と初伝伝説の変化を結びつけ、南インド地域のムスリムのアイデンティティー形成の跡をたどる研究をも行い、これを公表した。
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